虚血性心疾患とは

心臓の周りには冠動脈と呼ばれる動脈があり、この冠動脈を通じて心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を含んだ血液を送り届けています(図1)。
心筋梗塞や狭心症をまとめて「虚血性心疾患」とよびます。
虚血性心疾患の病態は、冠動脈が動脈硬化やけいれんなどで狭くなったり、詰まったりして、心筋に十分な血液が行き渡らなくなることです。
症状が軽いものから重いものまで色々あります。
胸の痛みや背中の痛み、圧迫感を覚えた方は、虚血性心疾患をきたしている可能性がありますのでお早めに循環器内科を受診するようにして下さい。

男女年齢別では、特に50歳を過ぎた男性で多く見られます。
但し、女性でも60歳を過ぎると罹患率が急に高くなりますので、男女ともに、50歳を過ぎたあたりから症状に注意する必要があります。

図1.冠動脈の走行 図1.冠動脈の走行

心筋梗塞とは

胸痛のイメージイラスト

冠動脈が突然詰まって血液の流れが途絶えてしまい、心筋に酸素と栄養が供給されなくなり、その領域の心筋が壊死してしまう疾患です。
激しい胸の痛み、胸の圧迫感、呼吸困難、冷汗、嘔吐などの症状が現れたときは、この疾患が疑われます。

但し、高齢者や糖尿病患者の場合、はっきりとした痛みが出ず、吐き気や虚脱感のみを感じるケースもありますので注意が必要です。

心筋梗塞を放置しておくと、心不全や重症の不整脈などによって命にかかわることもありますので、胸の痛みなどを感じた方は早急に循環器内科を受診するようにして下さい。

狭心症とは

息切れのイメージイラスト

冠動脈の血管内が狭くなったり、痙攣を起こしたりすることによって心筋に供給される血液が不足してしまう疾患です。
幾つかのタイプがありますが、初期の段階で特に多く見られるのが労作性狭心症です。

仕事や運動などで身体を動かした際には、安静時とくらべて多くの酸素が必要となりますが、冠動脈の血流が悪くなるため十分な酸素を供給できず、胸の中央部辺りが締め付けられるような症状が生じます。

この他、安静時にも胸痛などが引き起こされたり、発作の頻度が増えたり、軽い動作でも発作が起こる不安定狭心症があります。
これは心筋梗塞に移行する可能性がある危険な状態なので、出来るだけ早く循環器内科を受診することが大切です。

どんな人が虚血性心疾患になりやすいか

虚血性心疾患になりやすい危険因子として、

メタボのイメージイラスト
  • 高コレステロール血症・低HDL(いわゆる善玉コレステロール)血症
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 喫煙
  • 肥満
  • 若年の冠動脈疾患の家族歴
  • 男性

などがあげられています。
重要なことはこれら危険因子の多くを、食事や運動など生活習慣の改善や内科治療によって克服することができることです。

虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)の検査方法

詳細な問診を行ったうえで、つぎに血液検査・胸部レントゲン・心電図検査・心エコー検査を行います。
血液検査では、心臓にかかる負担を客観的に示す数値(NT-proBNP, BNP)や心筋梗塞の有無を迅速に調べる項目などがあります。また、虚血性心疾患の危険因子を評価することもできます。
胸部レントゲンでは、心臓拡大の有無や心不全の有無を確認することができます。
心電図では、心筋梗塞の有無、心臓肥大、心筋障害、不整脈の有無などを調べることが出来ます。
心エコー検査では、心臓の機能、心筋の動き、心臓弁の状態、心室壁の厚さ、左心室や左心房の大きさなどを把握することができます。

さらに、狭心症が疑われる場合は運動負荷心エコー検査をおこないます。
狭心症には、症状が無い時にいくら検査をおこなっても異常所見を見つけることが出来ないという特徴があります。
そのため、一般的な検査しかしていない狭心症の患者様の中には、医療機関から「心臓は問題ない」と言われた方も多いのではないでしょうか。
しかし、実際には症状を再現して本当に虚血が生じているかどうかを確認しなければ、狭心症の診断をつけることは出来ません。
狭心症の有無を確認するためによく行われる運動負荷心電図(マスターダブル検査:階段昇降による負荷検査、トレッドミル検査:ランニングマシーンによる負荷検査)では、運動前後に確認するのは症状と心電図のみですので実際には虚血の状態を詳細に評価することはできていません。
また、医師が直接行うことは少ない検査であるため、本当に虚血を生じてしまった患者様にとっては、非常に危険を伴った検査となってしまいます。

一方で運動負荷心エコー検査は、運動負荷の前後で心電図に加えて心エコー検査までおこなうことができるため、虚血の状態を詳細に評価することができます。
また、基本的には医師が一緒におこなっている検査ですので、実際に虚血を引き起こしてしまった場合もすぐに対応することが出来ます。
この運動負荷心エコー検査は大学病院などの専門施設であっても行えない施設が多く、非常に専門性が高い検査として知られています。

当院の運動負荷心エコー検査では、臥位エルゴメーター(仰臥位で自転車をこぐ装置)を用いて運動負荷をかけて、負荷の前後だけでなく負荷中にも心エコー検査で評価をすることができます(図2)。
もし検査中に気分が悪くなったり症状が生じたりした場合でも、すぐに自転車をこぐことをやめればよいので転倒などの危険は少なく、医師と専門スタッフがそばについて心エコーだけでなく心電図や血圧計測も同時にモニターしているため非常に安全な検査です。
虚血の状態を心エコーで評価するだけでなく、運動をどの程度して良いのかを数値化して表すことができるため、現状の運動機能を評価することも可能です。

心筋梗塞が疑われる場合や運動負荷心エコーで異常所見があった場合は、造影剤を用いた心臓CT検査やカテーテル検査を検討します。

図2.当院の運動負荷心エコー検査で用いる運動負荷装置 図2.当院の運動負荷心エコー検査で用いる運動負荷装置

当クリニックの運動負荷心エコー検査で異常を認めた場合は、以下にあります協力施設と連携して診断を進めていきます。

虚血性心疾患の治療方法

主な治療法としては、薬物療法、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス手術があります。

薬物療法は、血圧を下げる降圧薬、心臓への負担を軽くするための血管拡張薬、冠動脈を拡張させる硝酸薬、血液をさらさらにする抗血小板薬、体内の水分を排泄する利尿薬、心筋の収縮を助ける強心薬などを、それぞれの症状に合わせて使用します。

経皮的冠動脈インターベンションは、手首や腕の血管からカテーテルをすすめ、冠動脈の狭くなった部分を内側から膨らませ、血液の流れを良くする治療法です。
体に大きな傷を付けることなく、局所麻酔で行うことが出来ます。

冠動脈バイパス手術は、冠動脈の詰まった部分の先に迂回路(バイパス)を作り、狭心症や心筋梗塞の原因となっている心筋の血流不足を改善する手技です。
経皮的冠動脈インターベンションよりも侵襲性は高いのですが、それぞれメリットとリスクが異なるため、患者さまの症状や年齢、健康状態などを勘案して選択します。