急性大動脈解離

急性大動脈解離とは

救急車のイメージ写真

大動脈は、身体の中で最も太い血管であり、心臓から拍出されるすべての血液を運ぶ役割を担っています。
この大動脈が突然、裂けてしまう病気が急性大動脈解離です。
体の様々な器官に血液を送り届ける重要な血管ですから、緊急入院し、一刻も早く治療を行わないと命に関わります。

特に、心臓から出てすぐの上行大動脈が裂けたり、その血管が破裂したりすると、その後に流れるべき脳や腎臓、腸管、四肢などに血液が行き届かなくなりますので、緊急手術が必要になります。

この疾患の症状として、裂けるときに強烈な痛みが生じます。
例えば胸の血管が裂けたときは胸や背中が痛みますし、お腹の血管が裂けたときは腰に激痛が走ります。
この他、失神、手足の麻痺、腹痛、下血などの症状が起こることもあります。
いずれにしても、緊急対応が必要ですから、このような痛みを感じられた方は、すぐに救急車を呼ぶようにして下さい。

主な原因

最も関連性が高いのが高血圧や動脈硬化です。
血管に強い圧力がかかることによって血管の内側の膜に傷ができ、血管の壁に解離腔が発生しやすくなります。
実際、急性大動脈解離を起こした人の約70%は高血圧症を患っています。

また、先天性疾患や遺伝的要素によって起こることもあります。
マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群などの患者様は、大動脈が脆くなったり、出血しやすくなったりするため、注意が必要です。

妊娠中の方も、ホルモンの一部が増えることによって大動脈の壁に影響をもたらすため、大動脈解離のリスクが高まります。
時期としては、妊娠後期(25週以降)と出産後に多くなる傾向があります。

この他、交通事故などによって大動脈に強い衝撃が加わった場合にも引き起こされることがあります。

急性大動脈解離の検査・治療

診断にあたっては、主に造影剤を使用したCT検査を行います。
造影剤を投与して血管の状態をより明確に映し出し、大動脈解離の状態を調べるのです。
この他、心臓エコーやMRI、血管造影が用いられることもあります。

検査の結果、危険度が高いと判断されたならば緊急手術を行ないます。
心臓の左心室から出てすぐの上行大動脈が裂けているケースはもちろん、大動脈の急激な拡大、臓器の血流障害、激しい痛みなどが顕著なときは緊急手術が必要です。

危険度が極めて高い水準に至っていないときや裂けている部位によっては、カテーテルを用いたステントグラフト内挿術で治療を行うこともあります。
ステントグラフトとは、人工血管に金網状の金属を編み込んだステントをカテーテルの中に納め、太ももの付け根から血管内に入れ、患部で広げて大動脈解離が進行しないようにする治療法です。
侵襲性が低いため、患者さまの負担が小さくて済みます。

なお、緊急手術が必要ではないケースでも、入院して血圧を下げる治療を行います。
暫くしてから再び造影CTを撮影し、血管の解離状態を確認する必要があるのです。
ここで大動脈の状態が悪化していない場合は、退院して様子を見ますが、その後も定期的にCT検査を受けるようにして下さい。

胸部大動脈瘤

胸部大動脈瘤とは

心臓から拍出される血液を運ぶ大動脈のうち、大動脈基部、上行大動脈、弓部大動脈、胸部下行大動脈に瘤が発生する疾患です。
通常、胸部大動脈の太さは20~30㎜程度ですが、血管の壁が硬くなったりして30~40㎜以上に膨らんでしまうことを大動脈瘤といいます。
さらに瘤が拡大していくと、徐々に血管破裂のリスクが高まっていきます。

大動脈がいったん破裂すると、非常に危険な状況に陥ります。循環する血液量が減少するため脳や各種臓器に血液が届かなくなります。
緊急手術を行なって動脈瘤を人工血管に置換したりしますが、それでも手遅れになることが少なくないのです。

そのため、大動脈瘤が50㎜よりも大きい場合や、急速に拡大している場合は、血管破裂のリスクを防ぐため、手術が必要となります。
その他の疾患の状況によっては、これよりも小さいサイズの段階で手術が必要となることもあります。

動脈瘤が形成されたとしても、ほとんどの症例では目立った自覚症状が現れません。
定期健診をきちんと受診し、その際に胸部エックス線写真を撮影するようにしましょう。
また、大動脈瘤が破裂する直前には、非常に強い胸の痛み、背中の痛みを感じます。このような痛みが見られたときは、急いで救急車を呼ぶようにして下さい。

主な原因

最も大きな原因とされているのが動脈硬化です。
脂質異常症などによって血管の壁に脂肪が付着していくと、徐々に弾力性が失われていき、瘤が作られやすくなります。
この他、血管壁で細菌が増殖したり、外傷などで血管壁が傷つけられたりしたときも瘤が出来やすくなるので注意が必要です。

胸部大動脈瘤の検査・治療

胸部エックス線撮影によって大動脈瘤が疑われたときは、CT検査を行います。
これによって大動脈の状態を調べ、瘤の有無、その大きさや危険度合いなどを判別するのです。
CT検査の代わりに心エコー検査、血管造影、MRIを行うこともあります。

根本的な治療として、開胸手術やカテーテル治療を検討します。
瘤の大きさが小さく、緊急性が高くないと判断された場合は降圧薬などの薬物療法で済ませることもありますが、破裂の危険がある場合はこれらの治療が必要なのです。
具体的には、従来から広く行われてきた開胸での人工血管置換術と、近年新たに導入されたカテーテルによるステントグラフト内挿術となります。
人工血管置換術は、胸を開いて大動脈瘤の周辺部位を人工血管に置き換える方法です。
これに対し、ステントグラフト内挿術は、金属の骨格を持つ特殊な人工血管を足の付け根の大腿動脈から挿入し、大動脈瘤内で広げる方法です。
開胸手術よりも侵襲性が少ないので、高齢の患者様で行われるケースがあります。

腹部大動脈瘤

腹部大動脈瘤とは

大動脈のうち、横隔膜から下の腹部大動脈に出来る瘤を腹部大動脈瘤と呼びます。
通常、腹部大動脈の直径は20㎜以下ですが、動脈硬化などによって瘤が作られ、徐々に大きくなっていきます。

胸部大動脈瘤と同じように、瘤が大きくなると破裂の危険性が高まりますので、瘤の部位が50㎜以上に膨らんでいるケース、急速に拡大しているケースでは、手術が必要となります。
その他の疾患の状況によっては、これよりも小さいサイズの段階で手術が必要となることもあります。

ほとんどの症例では目立った自覚症状が現れませんので、定期健診をきちんと受診し心エコーでの大動脈チェックやCT撮影を行っておくことが大切です。
特に、60歳以上の男性は動脈瘤のリスクが高まりますので、定期的に心エコーを受けるようにして下さい。

なお、大動脈瘤が破裂する直前には、非常に強い腹痛や腰痛を感じることが多いと言われています。
このような痛みが見られたときは、急いで救急車を呼ぶようにして下さい。

主な原因

最大の原因は、胸部大動脈瘤と同じく動脈硬化です。
この他、血管壁で細菌が増殖したり、外傷などで血管壁が傷つけられたりしたときも瘤が出来やすくなります。

腹部大動脈瘤の治療

腹部エコーやCT,MRI、血管造影によって50 mm以上の大動脈瘤が見つかったときは、治療が必要となります。胸部大動脈瘤と同様、人工血管置換術とステントグラフト内挿術を検討します。なお、大動脈瘤が破裂してしまった場合、破裂寸前の状態のときは、緊急手術が必要となります。