弁膜症は「症状」で始まらない ―― 私が何度も見てきた見逃し

  • 2025.12.26

こんにちは 渡辺弘之です。
弁膜症という言葉を聞いたとき、多くの方がまず思い浮かべるのは「息切れが出る病気なのだろうか」「症状が出たら気づけるのだろうか」というイメージではないでしょうか。病名を耳にしただけで、不安になるのはとても自然なことです。
けれど、私がこれまで数多くの弁膜症の方を診てきて、はっきりと言えることがあります。それは、弁膜症は症状から始まらないことがあるという事実です。

心臓の役割
そもそも心臓は、体の中で血液を全身に送り出すポンプの役割を担っています。左心室から全身に、右心室から肺に血液を送り出しています。その心臓には、血液の逆流を防止する『弁』があります。弁の役割は逆流防止です。左心室の入り口には僧帽弁、出口には大動脈弁があります。右心室の入り口には三尖弁、出口には肺動脈弁があります。僧帽弁は左心室から左心房への逆流を防止し、大動脈弁は大動脈から左心室への逆流を防止しています。

弁膜症は、弁の機能が低下した病気
弁膜症は弁が開かなくなる狭窄症と閉まらなくなる逆流症(閉鎖不全症)があります。どちらも心臓に負担をかけ心機能低下に繋がります。多くの方が抱きやすい誤解に「弁に異常があれば、体がすぐに教えてくれるはずだ」という考え方です。実際には、弁膜症がかなり進んでいても、自覚症状がほとんど出ない方がいます。診察室で「特に困っていません」「元気に生活しています」と話され、検査をして初めて、想像以上に進んだ状態が分かる。そうした場面を、私は何度も見てきました。

我慢強い心臓
これは、患者さんが無理をしているからでも、気づいていないからでもありません。心臓はとても我慢強い臓器です。多少の負担がかかっても、しばらくのあいだは何事もなかったかのように働きます。そのため弁膜症は、「症状が出たら見つかる病気」ではなく、症状が出ないうちに見つかることがある病気なのです。

心エコーで判断すること
そこで重要になるのが、心エコー検査です。心エコーは、心臓の動きや弁の状態を目で見て確認できる検査で、症状や感覚だけでは分からない変化を明らかにしてくれます。心エコーが必要だと聞くと、「何か悪いことが起きているのでは」と身構えてしまう方もいるかもしれません。しかし私にとって心エコーは、不安を増やすための検査ではなく、判断を誤らないための検査です。

まとめ 
弁膜症は、早く見つかったからといって、すぐに治療が必要になるとは限りません。多くの場合は、今の状態を正しく知り、適切なタイミングを逃さないように見守っていくことが何より大切です。

このシリーズでは、「症状がない=安心」と思われがちな弁膜症について、なぜそれが通用しない場面があるのかを、少しずつお話ししていきます。すぐに何かを決める必要はありません。ただ、知っておくことが、将来の選択肢を守る。そのことだけ、心に留めていただければと思います。

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