【弁膜症シリーズ3】弁膜症は高齢者だけの病気ではありません
- 2026.01.26
こんにちは。渡辺です。
今回の内容 心臓弁膜症は高齢者だけの病気ではない。無症状のうちに進行し、気づいた時には心機能が回復しないこともある。現役世代こそ知っておきたい、将来の生活の質を守るための治療の考え方です。
若いのに弁膜症?
これまでのお話で、「弁膜症は高齢の方に多い病気」という印象を持たれた方も多いかもしれません。確かに、加齢に伴い発症リスクが高まるのは事実です。しかし、心臓弁膜症は決して高齢者だけの病気ではありません。 40代、50代の中年層や、さらに若い世代の方にも起こりうる病気です。
実際の診療では、バリバリと仕事をこなし、運動も楽しみ、日常生活にまったく不自由のない方が、健康診断などをきっかけに弁膜症と診断されるケースが少なくありません。 「こんなに元気なのに、本当に治療を考える必要があるのですか?」 そう驚かれるのは、非常に自然な反応だと思います。
しかし、私がここで強調したいのは、治療を検討する基準は「年齢」ではなく、「その方がこれからどのような人生を送りたいか」という点にあります。
「元気」だからこそ治療の選択肢を知る意義がある
活動性が高く、これからも仕事や趣味、旅行を全力で楽しみたいと考えている方にとって、心臓の状態は将来のQOL(生活の質)に直結します。なぜ、無症状のうちから治療の選択肢を整理しておく必要があるのでしょうか。
治療の低侵襲化と安全性の向上
一つ目の理由は、弁膜症治療の選択肢が広がり、体への負担(侵襲)が抑えられるようになってきたことです。 外科手術の低侵襲化(MICS*など)により、早期に社会復帰を目指せる環境が整いつつあります。現在の医療において、治療は「ボロボロになってからの最後の手段」ではなく、「将来の活動性を守るための前向きな選択肢」に変化しています。
(MICS*とは 小さな傷で低侵襲に行う心臓の手術)
「無症状」の裏で進む心臓への負担
もう一つ、医学的に非常に重要な理由があります。 それは、高度の弁膜症を「症状がないから」と放置した場合、自覚症状が出た時点では、すでに心臓の機能が元に戻らない段階(不可逆的な変化)まで低下していることがあるという事実です。弁膜症を抱えた心臓は、症状が出る前から懸命に代償(無理をして補うこと)を続けています。この状態が長く続くと、たとえ後で手術を行って弁の逆流を治したとしても、心臓のポンプ機能そのものが以前のように回復しないリスクがあるのです。
早期発見は「即手術」ではない
誤解していただきたくないのは、「見つかったらすぐに手術が必要」というわけではない、という点です。弁膜症の診療において重要なのは、「症状の有無」だけで判断するのではなく、心エコー検査などを通じて、「今、心臓がどのステージ(段階)にあり、どれくらい余力があるのか」を医学的に正しく把握することです。
私が診療で最も重視しているのは、「今すぐ治療をするかどうか」の二択ではありません。 今、心臓の状態を正しく知ることで、その人がこれからの人生をどう過ごせるか、将来のリスクをどう最小限に抑えられるか。その「人生の選択肢」を患者さんと一緒に整理することです。
元気な今だからこそ、未来への準備を
弁膜症は、高齢者だけの病気ではありません。そして、活動的な方ほど、治療のタイミングがその後の人生を大きく左右することがあります。
だからこそ、私はこうお伝えしています。 「今は元気だから何もしない」のではなく、「元気な今だからこそ、将来を守るための選択肢を知っておく」。
それが、10年後、20年後も自分らしく輝き続けるための、最善の備えになると信じています。
文責 東京心臓血管・内科クリニック 南行徳本院 渡辺弘之