若年性脳梗塞は心臓に原因があることも~卵円孔開存の検査について~

  • 2024.04.17

こんにちは、看護師の三浦です。

4月になり新年度が始まりました。新しい環境になり、疲れを感じ始めている頃ではないでしょうか。

本日は脳梗塞と心臓の病気の関係についてお話をさせていただきます。

脳梗塞はよく耳にする疾患であり、頭部CTで小さな脳梗塞の痕があったなど指摘を受けたことがある方もいらしゃると思います。その中でも、片頭痛や60歳以下の若年性脳梗塞の発症は、心臓の病気が関係していることがあります。

脳梗塞の原因となる心疾患は「心房細動」という不整脈が有名です。心房での電気刺激が速く不規則に出現することで、心臓内の血流がよどんでしまい血栓を形成してしまうことが原因です。

今回は不整脈とは異なった機序での、脳梗塞の原因となることがある、卵円孔開存(らんえんこうかいぞん)という、出生後に心臓にある心房という部屋の壁の穴が閉じないことで、体の末端の深部静脈で出来た血栓が、心臓から脳に飛んでしまう心疾患について分かりやすくご説明させていただきます。

この疾患の有無については当院で、心臓超音波エコーと血管からのブドウ糖液の注射にて検査することが出来ます。


卵円孔開存(らんえんこうかいぞん)とは

人は生まれる前の母親のお腹にいる時(胎児)と、産まれてからの体は血液の流れや心臓・血管の構造が異なります。

胎児の血液の流れを胎児循環といいます。胎児のときは肺の循環血液量は少なく、胎盤を通して母親の血液内から酸素を取り込みます。母親から流れてきた酸素を多く含む血液は、体の下方から心臓に繋がっている下大静脈(かだいじょうみゃく)から心臓の右心房に流れ込みます。その後、血液は右心房と左心房の間の、心房中隔(しんぼうちゅうかく)といわれる壁にある、卵円孔(らんえんこう)という穴を通して左心房へ通過し、左心室から大動脈へと流れます。この血液の多くは胎児の脳を循環します。

出生後は肺で酸素交換をされた血液が増加し、左心房の圧が高くなると卵円孔は左心房側からフタをされるように閉鎖します。卵円孔が閉鎖するには生後数週間から数か月かかります。しかし、この穴が完全に閉鎖されないと、右房圧が上昇した時に右房⇨左房へ静脈血が流入してしまいます。

本来であれば右房は全身に酸素や栄養を送り届けたあとの静脈血が戻ってくる場所であり、その後は右室から肺動脈に流れて酸素を受け取りに肺に向かって流れていきます。左心房は肺で酸素交換が行われた動脈血が戻ってくる場所であり、静脈血が混じることはありません。


卵円孔開存による脳梗塞・一過性脳虚血発作について

出生後は心房中隔に穴が開いていても、心臓は全身に血液を送り出す左側の方が圧が高くなっているため、通常は右房⇒左房に血流は流れにくい状態です。

しかし、グッと息んだり、胸腹部に力が入ると一時的に右房圧が上昇することで、閉鎖されなかった卵円孔の穴を通して右房⇒左房に血液が流れ込むことがあります。

その際に、下肢静脈血栓などの体の末梢で形成された血栓が血流に乗って心臓に戻り、卵円孔を通過して左心房に流入してしまい、さらに左心室から出ている大動脈を通り、脳の血管に流れていくことで脳梗塞や一過性の脳虚血発作を発症することがあります。

このような機序で発生する脳梗塞のことを「潜在性脳梗塞(せんざいせいのうこうそく)」あるいは「奇異性脳塞栓症(きいせいのうそくせんしょう)」といいます。

一過性の脳虚血発作の場合は、突然の手足や顔面の運動障害や感覚障害、言葉の喋りにくさや、片側の視野に黒い点が出現し、一部分の視野が欠損したり、片側の視野だけ幕が下りたように見えなくなるなどの症状が生じることがあります。症状の出現時間は、おおよそ10-15分程度が多いです。

「潜在性脳梗塞」・「奇異性脳塞栓症」の発症

卵円孔開存と潜在性脳梗塞・頭痛の関係

潜在性脳梗塞(せんざいせいのうこうそく)・奇異性脳梗塞(きいせいのうこうそく)とは、すでに知られている機序では説明がつかず、さらなる原因検索を進めた後にも、その発症機序が明らかでない、あるいは原因が特定できない脳梗塞であり、1988年には潜因性脳梗塞の一部に卵円孔開存が関与する可能性が示唆されており、研究が進められました。1)

卵円孔開存は健常者の約25%に存在しており、さらに潜因性脳梗塞(せんざいせいのうこうそく)の約50%に併存しています。さらに、前兆のある片頭痛患者における卵円孔開存の有病率は約50%とされ、複数の研究結果を統合しさらに分析した結果では、卵円孔開存では前兆のある片頭痛のリスクを3倍高めることが報告されています。2)

2016年には保険適応となった、潜因性脳梗塞に対する植込み型心電計により、潜因性脳梗塞の病態精査の重要性が広く認識されるようになりました。卵円孔開存を含む発症機序となりうる疾患(低リスク塞栓源心疾患、左房異常、無症候性心筋梗塞、悪性腫瘍、潜在性心房細動、凝固線溶異常、膠原病、非狭窄性プラーク、大動脈弓部粥腫病変、非動脈硬化性血管病等)を精査し、特に高齢者では潜在性心房細動、悪性腫瘍、若年者は卵円孔開存、膠原病を含む内科疾患の合併に留意し、急性期入院後の精査で病型診断に応じた適切な再発予防戦略を立案することが重要であると言われています。3)


当院で可能な卵円孔開存の検査

当院では心臓超音波検査を用いて卵円孔の有無を検査します。

検査までの準備は左肘の内側に点滴用の柔らかい針を挿入します。その後、エコー室にてブドウ糖の注射液と自身の血液を用いて、とても細かい気泡(マイクロバブル)を作成し注入します。

注入後に顔が赤くなるくらい、グッと息んでいただき、マイクロバブルがどの様に心臓に到達するのかを胸から超音波を当てて観察していきます。

バルサルバ負荷(いきみ)時、あるいはバルサルバ負荷を解除した直後に、左心系で確認されるマイクロバブル数でシャント量を判定します。バルサルバ負荷解除後3心拍以内に左心系にマイクロバブルが確認される場合、卵円孔開存の可能性が高いです。5)

表1 潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き 第2版 日本脳卒中学会・日本循環器学会・日本心血管インターベンション治療学会 2023.6より改変

卵円孔の閉鎖術について

卵円孔開存を有する潜因性脳梗塞を対象として、カテーテル術による閉鎖術があります。鼠径部(そけいぶ)といわれる大腿の付け根にある大腿静脈から、卵円孔を塞ぐデバイスが先端に付いたカテーテルを心臓の右心房まで挿入し卵円孔を塞ぐ方法です。

このデバイスにはニッケルなどの金属が使用されているため、金属アレルギーがある場合や解剖学的にカテーテル術が困難な場合は、胸部に3、4か所小さな切開をして機械を入れる穴をあけて、腹腔鏡で心臓にアプローチし卵円孔を閉鎖してくる低侵襲心臓手術(MICS:ミックス)と呼ばれる術式などもあります。
2018年に公表された研究(FENSE-PFO )では、「卵円孔開存の関与が疑わしい」若年性脳梗塞例(主に60歳未満)を対象とした場合、主に抗血小板療法(血液をサラサラにするお薬の治療)による内科的治療を実施した対照群と比較し、卵円孔閉鎖治療群は脳梗塞再発を含めた治療効果を判定する最終的な到達指標おいて有効性を示しました。さらに、解剖学的に高リスクの卵円孔開存を有する潜因性脳梗塞例を対象とした場合、2年間の観察期間で卵円孔閉鎖治療群に脳梗塞再発は認めなかったとのことです。一方では、術後心房細動発生率のリスク増加が課題となったとの報告があります。4)

卵円孔閉鎖術は脳梗塞との関係から、循環器科だではなく脳神経外科と一緒に、ハートブレインチームとして手術の適応を慎重に検討していきます。

文献

1)3)4)5)潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き 第2版 日本脳卒中学会・日本循環器学会・日本心血管インターベンション治療学会 2023.6

2)頭痛の診療ガイドライン2021   監修 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療   編集 頭痛の診療ガイドライン作成委員会


若年性脳梗塞の既往歴がある方や、頭痛の精査にて脳梗塞の痕が指摘された方など、卵円孔開存の可能性や心臓にご不安がありましたら、いつでも当院にお気軽にご相談ください。

卵円孔の閉鎖術の検討が必要となった場合には、引き続き安心して治療を継続できるように、連携している総合病院や大学病院などの専門医療機関へスムーズにご紹介させていただきます。

当院のバブル検査を実施する医師は院長の柴山先生になります。院長は心エコー日本超音波医学会 超音波専門医・超音波指導医であり、超音波検査の画像読影を得意としていますので、安心して検査をお任せください。

大学病院からも、卵円孔開存の超音波検査や運動負荷試験時の心臓超音波検査の依頼を受けておりますので、患者様だけではなく、近隣の先生方からの心臓超音波検査のご依頼もよろこんで診察させていただきます。いつでもお気軽にご依頼ください。

監修:柴山 謙太郎

PAGE TOP