胸の痛みが出たら、どうする?〜危険な胸痛かどうかを見極める〜

  • 2025.12.19

胸の痛みは外来診療をしていると最も相談される症状の1つです。みなさんも胸痛を自覚をしたことがある方はいらっしゃると思いますが、頻度や程度は様々ですしその受け止め方も人によって異なってきます。

今回は胸痛について渡辺弘之医師に次のように解説してもらいました。(柴山 謙太郎)

胸痛は、決して珍しい症状ではありません。日常生活のなかで、一度は経験したことがあるという方も多いでしょう。一時的な違和感で終わるものや、数分で消えてしまうものもあります。

しかしその一方で、命に関わる病気が含まれているのも事実です。

問題は、

  • 痛みの強さ
  • 我慢できるかどうか

だけでは、危険かどうかを判断できないという点です。

軽く感じても緊急性の高い胸痛はありますし、強くても心臓とは無関係なこともあります。そのため胸痛は、「様子を見るかどうか」を感覚だけで決めてはいけない症状です。当院の受付で「胸の痛みはありますか」と最初にお伺いするのは、診断以前に、優先順位を決める必要があるからです。

1.最も注意が必要な胸痛:心筋梗塞

最も注意が必要なのは、心筋梗塞に関連する胸痛です。
心筋梗塞の胸痛には、いくつか共通した特徴があります。

  • 胸が締め付けられる
  • 押しつぶされるような圧迫感
  • 重たいものを載せられたような感覚
  • 焼けるような不快感

これらの痛みが20分以上続く場合、「もう少し様子を見る」という判断は適切ではないかもしれません。特に冷や汗、吐き気、息苦しさ、理由の分からない強い不安感を伴う場合に注意が必要です。

重要なのは、
この胸痛が運動中だけに起こるとは限らないという点です。安静時や睡眠中に、前触れなく起こることもあります。

「動いていないから大丈夫」
「少し休めば治るだろう」
この判断が、結果として治療の遅れにつながることがあります。

2.突然の胸痛と息切れ:肺血栓塞栓症という病気

胸痛の中には、心臓ではなく肺が原因のものもあります。代表的な疾患が、肺血栓塞栓症です。

肺血栓塞栓症では、血のかたまり(血栓)が肺の血管を詰まらせることで、次のような症状が起こります。

  • 突然の胸痛
  • 急な息切れ
  • 深呼吸で強くなる痛み
  • 動悸や不安感

心筋梗塞と症状が似ていて症状だけでは鑑別できません。長時間の座位(長距離移動後など)や、手術後、脱水などがきっかけになることもあります。このような胸痛・息切れが急に出現した場合は、早急な医療対応が必要です。

3.早めの受診が望ましい胸痛:狭心症・心筋症・弁膜症

体を動かしたときに胸が苦しくなり、休むと楽になる胸痛は、狭心症で説明できることがあります。狭心症は、心臓の血管が狭くなり、運動時に心筋への血流が不足することで起こります。症状が出ている間は、心臓が「足りない」と訴えている状態です。

狭心症は症状が軽いうちは見過ごされがちですが、この段階で評価し治療につなげることで、将来の心筋梗塞を防げる可能性があります。

また、同様の胸痛は、

  • 心筋症(心臓の筋肉の病気)
  • 弁膜症(心臓の弁の異常)

でもみられることがあります。
これらでは、運動時に心臓が十分な働きをできず、胸痛や息切れとして現れることがあります。

当院では、診察に加えて採血、胸部レントゲン、安静時心エコー、必要に応じて運動負荷心エコーなどを行い、診断精度を高めています。

4.様子を見てもよいことが多い胸痛

すべての胸痛が心臓由来というわけではありません。

  • 胸を押すと痛む
  • 体をひねると痛い
  • 深呼吸や咳で痛みが強くなる

こうした痛みは、肋骨・筋肉・神経が原因であることが多く、
心臓とは無関係な場合がほとんどです。

また、

  • 食後の胸焼け
  • 横になると悪化する胸の違和感

は、胃酸の逆流など消化管の症状で説明できることもあります。

ただし重要なのは、
「心臓が原因でない」と症状だけで断定することはできないという点です。

5.胸痛で迷ったときの現実的な判断基準

次のような場合には、受診をおすすめします。

  • これまでに経験したことのない胸痛
  • 繰り返す胸の違和感
  • 息切れや動悸を伴う
  • 休んでも改善しない

まとめ|胸の痛みで覚えておいてほしいこと

1.胸痛は「いつ・どんな状況で」起こるかが大切
2.心筋梗塞や肺血栓塞栓症など、緊急対応が必要な場合がある
3.原因がはっきりしないときは、早めに医療機関へ
4.胸痛は「受診して何もなかった」でも問題ありません

当院では、胸痛の背景を一つずつ整理し、
必要な検査を見極めながら丁寧に評価しています。
「これくらいで受診していいのかな」と迷ったときこそ、ご相談ください。
その判断が、安心につながります。

文責:渡辺 弘之

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