「心不全パンデミック」ご存じですか?~超高齢化社会における心不全患者の増加とかかりつけ医について~
- 2024.01.24
目次
こんにちは、看護師の三浦です!
新年初めての投稿となります。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
皆さまは「心不全パンデミック」ということばをご存じでしょうか?
今年は2025年問題まであと、1年になりましたので、超高齢化に伴って増加の一途をたどる心不全患者数とクリニックの役割についてお話をしたいと思います。
現在、日本では心不全患者数は約120万人と言われており、超高齢化に伴い心不全患者が急増しています。心不全の罹患率は高齢になればなるほど高くなり、65歳以上で倍々に増加します。
2025年には団塊の世代が全員75歳以上となり、心不全患者はさらに増加し2035年には約130万人程度になると推測されています。(shimokawa H etal.Eur j heart fail 2015:17:884-892より)
心不全患者の増加に伴い、現在の診療体制では医療従事者や病床数の不足が心配されています。この状態のことを「心不全パンデミック」とよばれており、心不全にならないために国を挙げての予防計画や、大学病院などの高度医療を提供する中核病院から、回復期、慢性期、緩和ケアなどを担う地域のクリニックや訪問診療などの在宅医療といった地域医療など、心不全の状態に合わせた適切な役割の医療機関で治療を受けていけるように再度、医療連携の構築を考えていく必要があります。
心不全とは何のこと?
そもそも、「心不全」とは一体何なのかと思われるかと思います。何となく、心臓の機能が悪そうなイメージがあるかもしれません。
2017年、日本循環器学会と心不全学会から厚生労働省の記者会見で分かりやすく、「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命をちぢめる病気です。」いう定義が発表されています。
この定義の通り、心不全となりうる要因である高血圧や冠動脈疾患、弁膜症、心筋症など何らかの病気によって心臓のポンプ機能が悪くなり心不全状態になると、息切れや浮腫み、倦怠感などが出現し、心機能が低下していくと、日常生活の行動が今までのように出来なくなっていきます。
また、「だんだんと悪くなり」という一節にある通り、心臓は心不全増悪を繰り返すたびに心臓に負荷がかかった時の潜在能力(予備機能)が低下し心不全のステージが進んでしまうため、心不全を繰り返さないように初期の段階から治療と生活習慣の管理をしていくことが大切になります。
心不全とリスクのステージ
日本の心不全患者数と医療費について
超高齢化社会を迎えている日本では心疾患の患者数は増加しており、心疾患(高血圧性を除く)は1985年に脳血管疾患にかわり、2021年現在では全死亡者に占める割合は14.9%で第2位となっています。
2021年の国民医療費は45兆359億円であり、医科診療医療費を主傷病による傷病分類別にみると、循環器系の疾患は6兆1,116億円(構成割合18.9%)と最も多くなっています。(厚生労働省 2021年度 国民医療費の概況より)
2035年に向けて高齢者はさらに増加するため、さらに循環器疾患による医療費の増加は容易に想像できます。
1位 悪性新生物 | 26%(38万1497人) |
2位 心疾患(高血圧性を除く) | 14.9% (21万4623人) |
3位 老衰 | 10.6% (15万2024人 2018年に脳血管疾患にかわり3位となる) |
4位 脳血管疾患 | 7.3%(10万4588人) |
5位 肺炎 | 5.1% (7万3190人) 新型コロナウィルスによる死亡数の1万6756人は含まず |
心不全になったらどこで治療するの?~それぞれの病院の役割~
今後の高齢化に伴う心不全患者が増加した際に、心不全になったらまず最初にどこの病院で診てもらえばよいのかといった疑問が生じるかと思います。
いつもの歩行距離や日常生活の範囲内で息切れや動悸が生じたり、浮腫や急激な体重増加、血圧異常など異変を感じた時にはまず、歩行可能な状態であれば地域にある循環器クリニックなどの診療所を受診します。
クリニックで治療が可能な範囲の症状であれば、さらなる心不全の増悪がないよう症状のコントロールの治療を行い、定期的な検査をしながらフォローアップをしていきます。
日常生活に差し支えるくらいの安静時の息苦しさ・動悸などで、歩行もできない場合などの、緊急入院が必要な重度の心不全増悪状態であれば、総合病院や大学病院などの高次医療機関へ紹介されて入院することもあります。
徐々に心不全が悪化し、終末期になり通院が困難となれば、患者さんのご希望に併せて訪問診療や症状緩和のための治療入院など適切な医療機関に引き継ぎ、ターミナルケアや緩和ケアも行います。
もちろん、心不全の増悪が無いように管理していくことが重要ですが、心機能の低下に伴い心不全増悪入院を繰り返してしまうことも心不全の特徴の一つでもあり、心不全増悪入院の急性期と退院後の慢性期を高次医療機関と地域医療で密に連携を取り合いながら潤滑に回していく流れとなります。
このように、患者の状態に合わせて機能・役割の異なる病院間で医療連携をより強化することが、急性期の入院や集中的な治療が提供される大学病院などの有限な医療資源を守るためにも必要となってきます。
患者さん自身も、この仕組みを知らないと、症状が悪い時はすぐに大きな病院に行ったらよいのか、退院後にどこの病院に行ったらよいのかが分からなくなってしまわれることも少なくありません。
そして、この判断をするためには地域のかかりつけ医が入院の必要性をトリアージ(重症度によって入院などの必要性を決めること)するため、過不足ないように正確に診断できる、心不全に詳しい循環器専門医である必要があります。
さらにクリニックなどの地域医療は心不全患者の増悪予防の治療だけではなく、心不全となりうる糖尿病や脂質異常症、高血圧などの生活習慣病の患者さん(心不全のステージAの状態)も多く来院されるため、その患者さんたちのさらなる重篤な疾患への進展予防(3次予防)も行い、心不全患者や血管系疾患を増やさないという大きな役割もあります。
心不全は循環器専門医をかかりつけ医にしましょう
高齢者の特徴として様々な疾患を合併していることが少なくありません。心不全もその合併症の中の一つとして入ってくることも多く、総合的に一つの診療科で受診を済ませることも地域医療ではよくあります。
そこには、通院の身体的な負担や、地域の医療機関に限りがあったりと、一筋縄ではいかないような様々な理由があるかと思います。その中で、通院や往診医で循環器専門医の診察を受けることできるようであれば、循環器専門医の受診をお勧めします。
なぜ循環器専門医を勧めるのかという一例として、心不全とは浮腫みをとるために使用する利尿剤一つにしても、高齢者の調整できるストライクゾーンの枠は狭く、さじ加減で脱水を引き起こしてしまったりするため、治療薬の調整に専門的な知識と経験を要します。また、循環器領域の専門的な薬剤のバランスをとりながら、心エコーや採血データなどを正確に読み取り診断していくことは循環器専門医でないと難しいところです。さらに心エコー検査はより専門的な知識が必要であり、可能であれば心エコーを専門的にみられる施設がかかりつけとして好ましいと考えます。
また、高齢者だけではなく心不全は働き盛りの青年期~壮年期の方や、学生さんなどの若い方にも、弁膜症や高血圧、心筋炎、心筋症などで発症することもありますので、その後のフォローアップとしてクリニックは仕事終わりに受診できる時間帯に病院が開いていることや、予約が無くてもすぐに相談できるなどライフスタイルに合わせて通いやすいです。緊急時の搬送でも病院間での連携が取れているため搬送の流れもスムーズであり、この様に様々なことから、地域での循環器クリニックをかかりつけ医としておくことのメリットは大きいです。
当院では、医師全員が日本循環器学会に所属し、日常的に心臓血管疾患の診療をしています。そして、循環器専門医はもちろん循環器領域の超音波専門医や心臓カテーテルの専門資格である日本心血管インターベンション治療学会専門医などのより専門的な資格を有しており、心不全だけでなく心疾患を正確に診断し治療することが出来ます。さらに、複数の高次医療機関との提携があるため入院が必要となった際に治療の内容による最適な施設をご紹介できることや、退院後のフォローアップや在宅医療への連携も含めてご紹介できることも強みです。
最後に循環器内科クリニックの看護師として思うこと
今後の超高齢化に伴う心不全パンデミックもあり、地域医療では循環器内科を標榜するクリニックも増えてくることと思います。
特に今後増加が見込まれている、高齢者の患者さんは認知状態やご家族のサポート状況など多岐にわたりサポートが必要になってきます。その中で、患者さん一人一人へのヒアリングや症状の経過、患者さんからの調子が悪い時の問い合わせなどにも、看護師だからこそじっくり耳を傾けて関わることが出来ることもあります。
循環器クリニックは慢性の心不全にあるように、生涯を通して高齢者の方だけでなく幅ひろい世代の方の患者さんと向き合いながら、長い時間お付き合いしていくため、私は循環器クリニックの看護師として心疾患だけではなく、患者さんの思いやライフスタイルに寄り添って、それぞれの患者さん個人にとって、より最善の治療を受けられるように、患者さんと医師やその他医療機関の橋渡しの役割も担いながら精一杯サポートしていきたいと考えております。
些細な症状や健診の二次精査でも構いませんので、お体のご心配事がありましたらいつでもご相談ください。
監修:柴山 謙太郎