心臓弁膜症と言われたら?【心エコー専門医(超音波専門医[循環器領域])の重要性】

  • 2019.06.25

みなさんは、「心臓弁膜症」あるいは「弁膜症」という言葉をご存知でしょうか?もしかしたら、健康診断で心雑音の指摘をされて疑われたり、実際に病院で診断されたりしたことで「心臓弁膜症」という言葉を知っている方もいらっしゃるかもしれません。なぜこのようなことから書くかというと、心臓弁膜症は一般の方にとって馴染みが薄く、普通に生活をしていてもその名前を聞く機会が少ないからです。

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1. 心臓弁膜症という名前

心臓弁膜症という名前を初めて聞いた方の中に、病気のことを詳細にイメージできる人はほとんどいないでしょう。これは皆さんがよくご存じの高血圧や高コレステロール血症とは大きく違います。そもそも、高血圧や高コレステロール血症であれば、病名から病気の本質を理解しやすいという特徴があります。高血圧なら「血圧が高いのだろう」、高コレステロール血症なら「コレステロールが高いのだろう」と容易に想像することができます。また、これらの病名は健康診断の結果にしばしば登場してきます。私も含めて成人にとって健康診断の結果には生活習慣の通信簿を受け取るがごとくドキドキ感がありますから、ここで登場する高血圧や高コレステロール血症という名前に非常に大きなインパクトがあるのでしょう。そして、現代人が普段生活している中で反省すべき飲食をする機会はありふれており、みなさんが日常の生活を送るなかで「今の生活習慣を改めないと高血圧や高コレステロール血症になりますよ!」と注意されれば、実際に生活習慣を律するための励みになるでしょう。また、これら疾患が引き起こす重篤な病気についての知識や注意を喚起するための情報はテレビや新聞などメディアに日常的にあふれています。

一方、心臓弁膜症と聞いても病名をもとにして病気の本質を理解することは困難です。そもそも心臓について知っているようで知らないことも多いでしょうし、心臓弁とは何なのか?というところから話を始める必要があります。まず、心臓弁膜症は高コレステロール血症などのように単一の検査項目の数値が高い・低いといった判断基準だけで診断することができない病気ですから、何をもって心臓弁膜症なのかが伝わりづらいのです。また、健康診断でそのまま心臓弁膜症と診断されることはありませんので、一般の方が心臓弁膜症という言葉を耳にする機会は少ないのです。最近ではようやくテレビCMに弁膜症が登場する機会がふえてきて病名だけは知っているという方も増えてきましたが、一昔前までは医師の診断以外で心臓弁膜症という言葉が聞かれる場面は皆無でした。しかし、実際には弁膜症の患者さんは300万人以上いると推測されており(癌の患者さんを全て合わせても100万人です!)、われわれ専門医からすると極めて一般的な心臓の病気の一つなのです。

2. 心臓弁膜症のことを知ってもらいたい動機

今回、私がブログにこの文章を書く動機は3つあります。まず1つ目の動機は、一般の方々に心臓弁膜症のことをよく理解してもらいたいからです。ご本人やご家族やお知り合いの方が心臓弁膜症と言われたときに、その病気に関する情報が何もなければ大変困ってしまいます。一昔前、インターネットの無い時代には調べる手段もなくて途方に暮れるしかなかったかもしれません。最近ではインターネットや雑誌から断片的な情報は手に入るようになったかもしれませんが、詳細を理解するために十分な情報とは言えません。しかし、心臓弁膜症と言われた時を境に、病気の正しい知識や治療の方法などについて時間をかけてでも理解していかねばなりません。その時に心臓弁膜症についてまとまった情報があれば一つの指針になりますし、病気を知ることによって現在の症状が本当に心臓弁膜症によるものか、現在の病状はどの程度なのか、今後どのような経過をたどっていくのかを実感しながら把握していくことができると思います。

2つ目の動機として、心臓弁膜症と診断されたらその次にどのような行動を起こせばよいのか、みなさんにも一緒に考えてもらいたいと思ったからです。心臓弁膜症と診断されたとしても、すべての人がすぐに手術が必要となるわけではありません。むしろ、診断された時には手術までには至らない場合の方が多いのです。しかし、心臓弁膜症は薬の内服のみで完全に治る訳ではなく徐々に進行していく病気なのです。つまり、いずれ手術やカテーテル治療など侵襲的な治療が必要となってくる可能性があります。ですから、そのような治療が必要となるまでの間にどこで病気の経過をみてもらうのか、どこでどのような治療を受けたいのか、どこで治療後のアフターケアをしてもらいたいのか、を考えることが重要なのです。

最後の動機は、侵襲的な治療を受けた後のことを正しく知ってもらいたい、という思いからです。心臓弁膜症の治療として、手術を受けたらそれで全てが元通りという訳ではありません。自動車のメンテナンスと同じように、その後に適切なアフターケアをするからこそ、術後に安定した健康的な生活を送ることが出来るのです。また、どのような弁膜症の治療をしても再発するリスクは必ずありますので、それを経時的に評価していく必要があります。そして、状況によっては再手術が必要となることもありますので、その際には弁膜症の診療経験が豊富な専門医と相談していくべきでしょう。

3. あなたの通う医療施設に心エコー専門医(超音波専門医[循環器領域])はいますか?

ここまでお伝えした中で、心臓弁膜症に興味を持ったみなさんに確認しておきたいことがあります。もし、みなさんやご家族やお知り合いの方が医療機関で心臓弁膜症と言われた時、その医療機関で実際に心エコー検査を行ったのでしょうか?さらに、その医療施設には経験豊富な心エコー専門医(できれば超音波専門医[循環器領域]の資格を持つ医師)がいるのでしょうか?もし万が一、心エコー専門医がいない医療施設で心臓弁膜症と診断されていた場合、ときに病気の診断や重症度を間違えたり、患者さんの病態とは異なった評価をしたりする可能性があります。このようなことはあってはならないと思いますが、心臓弁膜症の専門ではない担当医が心エコー検査の内容を誤って解釈したまま適応のない治療や受ける必要のない手術が行われてしまったケースもあるのです。また、心エコー専門医がいない施設では心臓弁膜症の診断はできたとしても、治療タイミングを残念ながら誤ってしまう可能性があります。さらには、心臓弁膜症の診療経験が豊富な専門医が主治医でなければ、実際の治療をする際に適切な治療医に巡り合えない可能性もあります。そして、心臓治療後のアフターケアは経験豊富で心エコーを熟知した専門医が行うことが望ましいのです。心エコー専門医がいない施設でアフターケアをした場合、病気の再発や合併症を早期に見つけることができない可能性を覚悟しなければなりません。

4. 当クリニックができること

このクリニックを通じて私たちは、心臓弁膜症という病気が一般の方々に詳しく認識されるように願うとともに、患者さんにとって本当に正しい診断を行い、適切な治療や快適なアフターケアを受けられるような正確な情報を提供したいと思っています。また、その結果として「患者様 本位の正しく誠実な医療」を実現したいと考えています。当クリニックが心臓弁膜症の患者さんやそのご家族、お知り合いに方々にとって一助となることを切に願っております。

文責:柴山 謙太郎

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