中高年の成人が運動を継続することは長寿に関連【運動 = 心血管死リスク低減】
- 2019.07.27
こんにちは、中央区日本橋人形町で内科・循環器内科を診ております「東京心臓血管・内科クリニック」院長の柴山です。
世界保健機関(WHO) から推奨されている最少量の運動を毎週行う中高年以上の成人は、 たとえ若い時に不活発であっても、不活発な 中高年の成人よりも長生きをする可能性があることが、英国の大規模研究(Cancer and Nutrition-Norfolk study)から報告されました。(BMJ 2019; 365 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.l2323.)
成人における身体活動や運動療法は心血管疾患などのリスク低下に影響するといわれています。しかし、そのおおもとの情報となった今までのほとんどの研究では、数年間にわたる運動習慣ではなく単一時点での運動習慣の情報を用いて調査されていました。
当研究では、調査開始時に40~80歳であった男女14,599人の身体活動レベルを8年間にわたり継続的に評価しています。調査開始から8年後に、 死亡の追跡調査を開始しており、当研究の追跡調査の期間は平均12.5年間にわたります。調査期間中に、3,148例の死亡があり、心血管疾患による950例およびがんによる1,091例が含まれていました。
同研究をすすめた医師らは、対象者の就業時間内あるいは余暇時間内における身体活動を体重1kg当たりのエネルギー消費で測定・比較をしました。WHOの推奨(中程度の身体活動を1週間に150分以上)に相当する長期間の活動をしている中高年の成人は、不活発な状態を続ける同年代の成人と比較して、全死因死亡リスクが24%低下、心血管死リスクが29%低下、がん死亡リスクが11%低下していました。
さらに、活動性の増加に関連するこの死亡リスクの低下は、これまでの活動レベルとは無関係で、また、その他のリスク因子(この数年間の食事、体重、既往歴、血圧、コレステロール値など)の改善や悪化でさえも無関係でした。
また、一貫して不活発な人と比較して、もともと不活発であった人が中高年になってから運動を「低」活動レベルで開始した成人が、研究期間中にあらゆる原因で死亡するリスクが24%低いこともわかりました。もともと不活発であった人が「中等度」の活動レベルになった人が死亡するリスクは38%低く、「高」活動レベルになった人が死亡するリスクは42%低くなることもわかりました。
これをもとに、中高年の成人が集団レベルで中等度の身体活動を1週間に150分以上行うと、不活発であることに関連した死亡の46%が予防される可能性がある、と同研究を主導した医師らは算定しています。
ただし今回の研究では、運動もしくは長期間にわたる活動の変化が疾患を直接予防し得るのか、または大まかに長寿に役立つということなのか、もしくはどのような理由でそうなるのかは不明でしたので、今後の課題として残っています。
それでも、この研究は晩年の運動習慣の変化でも差が生じ得ることを示唆するエビデンスを増やすものです。とりわけ、運動を開始することで血圧、血糖、コレステロール値、炎症を改善し、腹部の脂肪を低減できることは、すでに他の複数の研究で見出されています。
当研究は現在の我々の生活環境の如何に関わらず、さらに長い健康な人生を楽しむためには身体活動を日課として確立させるには遅すぎるということがないということを示しております。 つまり、中年期に身体的に活動的になることは寿命を延ばし得る、また、活動的になることで全ての人がベネフィットを得るということが言えるのかもしれません。
文責:柴山 謙太郎