心臓弁膜症について著作した本が出版されました【SHDインターベンションコンプリートガイド】

  • 2019.07.28

こんにちは、中央区日本橋人形町で内科・循環器内科を診ております東京心臓血管・内科クリニック院長の柴山です。

この度、医学書院から『SHD インターベンション コンプリートガイド』が出版されました。私はこの本の、「 心臓弁膜症:僧帽弁閉鎖不全 」の「病態生理とマネジメント」というパートを担当しており、心臓弁膜症の一つである僧帽弁閉鎖不全症の原因や機序など、心臓弁膜症の治療をするうえで知らなければならない基礎知識を記載しております。

そもそも「SHD」という言葉自体が聞きなれない方も多いと思います。「SHD」という言葉は、構造的心疾患(Structural Heart Disease)の略です。これは、先天性心疾患や心臓弁膜症や特殊な心筋症や大血管疾患など心臓・血管の構造的に異常をきたした疾患を総称しています。近年、心血管疾患に対するカテーテル治療が発展してきたことに伴って生まれてきた概念です。もともとはこの「SHD」に対して、手術で開胸して直接病変部位を治していたのですが、できるだけ低侵襲に治療しようという試みからカテーテル治療が急速に広がっているのです。

近年この分野における最も大きな進歩としては、経カテーテル大動脈弁留置術 (Transcatheter aortic valve implantation, TAVI)が挙げられます。この治療法は高齢、もしくは合併症により従来の外科手術が困難な大動脈弁狭窄症の患者さんに対して、カテーテルを用いて低侵襲に生体弁を留置する方法です。TAVIは外科手術のできない高リスクの患者さんの予後を改善する治療法として、2002年にフランスで誕生した後、ヨーロッパでは2007年から、アメリカでは2011年から、そして本邦では2013年10月から保険治療ができるようになりました。2018年の時点で全国で既に6000例以上の患者さんがこの治療を受けられており、30日死亡率は1%以下と欧米のデータと比較しても非常に良好な成績を収めています。

また近年では大動脈弁のみならず、僧帽弁に対するカテーテル治療にも注目が集まっています。薬物のみでは症状のコントロールが難しい僧帽弁閉鎖不全症に対して、従来は開胸手術が行われていました。しかし、ご高齢の方や何かしらの持病を抱えている方など開胸手術が困難と思われる患者さんに対して、本邦では 2018年4月にから経皮的僧帽弁形成術(MitraClip)というカテーテル治療が保険適応となりました。本治療はヨーロッパで2005年に1例目が行われてから、ヨーロッパ、北米を中心に、すでに6万人以上の患者さんに行われています。本邦でも2015年から2016年に治験が行われ、良好な成績が得られたため保険償還となり、治療が可能になりました。

また他にも心房細動に対する経カテーテル左心耳閉鎖術、術後人工弁周囲逆流に対する経カテーテル治療なども海外ではすでに進んでおり、今後様々な疾患に対して発展していくと考えられます。

この分野の治療を安全に行うには、成熟した「ハートチーム」が必要とされています。「 ハートチーム 」とは、カテーテル治療医、外科医、心エコー専門医(イメージング専門医)、麻酔科医、放射線科医、コメディカル等のスペシャリストから構成されており、今までの「科」ごとで区切られた診療とは全くことなる組織です。

とくに、心エコー専門医(できれば超音波専門医の資格を有する医師)は「SHD」の治療方針や治療方法の決定に大きな役割を果たしており、「ハートチーム」に欠かせない重要な存在です。心エコー専門医の有無は、「ハートチーム」の治療の質を決めていると言っても過言ではありません。しかし、「SHD」に対する心エコーについてより専門的な知識が必要なため、「SHD」を十分に理解する心エコー専門医は決して多くはないのが現状です。どの「ハートチーム」にも心エコー専門医がいるわけではないため、よりよい心臓治療を受けるためにおかかりの「ハートチーム」に心エコー専門医がいるかどうかを是非チェックしてみてください。

文責:柴山 謙太郎

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